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投稿エッセイの部屋「ヒトイキ」
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生きてさえいれば

加藤幸男(55)

 幼い頃に父を亡くし母子家庭で育った。その母も私が19歳の時に他界すると、以来、天涯孤独の身で生きてきた。

 これまでに交際した女性は何人かいたが、結婚までには至らなかった。理由は私にある。子どもが作れない身体だからだ。子を持つことはやはり結婚する上で重要な問題で、その壁は幾度も厚く立ちはだかった。

 仕事は、高校を卒業してからずっと町工場に勤めてきた。30歳を過ぎると責任ある仕事も任せてもらえ、やりがいと誇りを持って懸命に働いた。43歳の時にリストラされてからは、アルバイトを転々として生活している。

 こんな自分の人生を振り返ってみて、たまらなくやるせない気持ちになることがよくある。一体何のために生きているのか、自分の人生は一体何なのか、そんなことをよく考える。

 でも、良いこともあるのだ。この歳にして正社員での就職が決まった。タクシーの運転手だ。誰かの、たった一つのかけがえのない人生を運ぶ大切な仕事だと思う。安全運転を心がけて、一生懸命努めたいと思う。

 生きてさえいれば、明日はくる。明日に希望を持って、今日を生きる。その連続が、私にとっての人生だ。

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