横浜にこんなすごい会社があった!Vol.9「世界初、商用ベースのLED植物工場に成功の株式会社キーストーンテクノロジー」
ココがキニナル!
横浜にこんなすごい会社があった! 第9回はビルの中で野菜を育てるシステム(LED植物工場)を商用ベースで開発し販売する「株式会社キーストーンテクノロジー」をご紹介!
ライター:吉田 忍
2014(平成26)年10月7日、青色発光ダイオード(以下、青色LED)の発明で、赤崎勇教授(名城大学)、天野浩教授(名古屋大学)、中村修二教授(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)がノーベル物理学賞を受賞。3教授の人柄とともに、LEDにも大きな注目が集まった。
これにちなんで、今回は話題のLEDを使った植物工場の企画、開発、販売で世界の先端を走る横浜のすごい企業、株式会社キーストーンテクノロジー(資本金3100万円、従業員数8名)をご紹介。
ビルの中で農業を行っていると聞いたが、一体どのようなものなのか。馬車道の本社と新横浜にある植物工場で近未来の農業を目の当たりにした。
ビルの1室で紫色の光の中で育つ野菜
まずは新横浜の植物工場ショールーム。ここには実際に稼働している植物工場があって、毎週金曜日には、ここで採れた野菜の直売も行われている。
新横浜の植物工場ショールーム
植物工場ショールームは、JR新横浜駅から近い環状2号線沿いのオフィス街にある。ビルの外観も普通のオフィスビルという感じで、この中に植物工場があるようには思えない。
小さいLED植物生産ユニットなどが飾られている1階のミーティングスペースで、迎えてくださったキーストーンテクノロジーの稲増(いなます)さんにまず会社の概要を伺った。
ご案内いただいた稲増さん
キーストーンテクノロジーは、2006(平成18)年8月設立というまだ新しく小さな会社。しかし、コスト削減などを実現し、LED植物工場を世界で初めて商用ベースで販売できるものとしたとのこと。
キーストーンテクノロジーの植物工場装置の総販売代理店株式会社アグリ王が、2010(平成22)年に奈良建設株式会社ビル内に設立され、両社が連携しながらLED植物生産に関する機器やシステムの企画・開発を行っているとのことなので、今回はアグリ王も含めた事業内容について紹介していく。この新横浜の植物工場はキーストーンテクノロジーとアグリ王が運営している。
LEDを使った植物の栽培については、LED植物工場設備である「新横浜LED菜園」を実際に見学しながらご説明くださるとのことで、菜園のある奈良建設ビル4階へエレベーターで向かう。
エレベーターの扉が開くと、目の前に妖しい紫の光で照らされた植物が並ぶ棚が出現! SF映画のような光景に圧倒される。
これが奈良建設ビルの中の植物工場
近寄って見てみると、ガラス張りの部屋の中に何台もの棚が並んでいて、その棚板一枚ごとにホウレンソウやレタスといった葉物野菜、バジルやタイムなどのハーブ、そして花をたくさんつけたナデシコなどさまざまな種類の植物が育っている。
紫色の光の中でぎっしりと植物が育っている
LED植物栽培をはじめたきっかけ
キーストーンテクノロジー社長・岡﨑聖一氏
キーストーンテクノロジー設立前、社長の岡﨑聖一(せいいち)氏は電子機器の受託開発を行っていた。ところが、開発案件は海外に仕事が流れていくようになった。
そこで、将来を見据えてなにか新しい事業を、と岡﨑氏は考えはじめる。
時代の潮流から環境に関する事業ということで、風力発電なども視野に入れつつ探していた時に、植物工場に関する論文に出会う。それはLEDで植物を育てるという内容のものだった。
屋内で野菜を生産する水耕栽培の植物工場は研究用の施設としてそれまでにもあったが、コストの面などで実用化が難しかった。そんな中で、岡﨑氏はLEDを使用することで自身の専門分野であるエレクトロニクスを土台にした環境事業の可能性を見出した。
そこで岡﨑氏は、LEDを使った植物工場を開発するために、試行錯誤を続けた。なかなかうまくいかなかった当初のことを、岡﨑氏は「当時は植物に関して素人だった。植物がどのように光を用いるかを理解していなかったことが苦労の原因」と話している。
植物について、特に光の作用について改めて学びながら研究を進め、やがてビジネスレベルで満足できる結果を得られるようになっていった。
光の波長によって植物の育ち方に違いが出る
そこで、キーストーンテクノロジー株式会社を設立。設立当初は植物生理学研究用のMagenta Light(マジェンタライト)を開発販売。2006(平成18)年から植物工場用栽培装置の研究開発に着手。2008(平成20)年に施設園芸用LED製品の発売を開始し、2010(平成22)年には植物工場用栽培ユニットを発売し、植物工場事業に本格的に参入。今では、商用のLED植物工場装置メーカーだ。
では、LEDが植物の栽培に適しているのはどうしてだろう。
植物の成長に効率のいい光を供給し、味や香りもコントロール
LEDを使って植物を栽培するメリットは、まず電力消費量が少ないことがあげられる。蛍光灯との比較でもおよそ3分の1だそう。LEDは寿命が長いのもご存じのとおり。
また、LEDは熱をほとんど出さない点も優れている。植物の近くから照射しても熱が伝わらないので、同じ高さならば栽培棚数を増やせるため栽培量が増え、また温度管理も容易になる。
植物は、太陽光が持つさまざまな波長の一部を使って光合成を行っているのだが、研究により光合成が最も活発に行われる光の波長は660ナノメートルだという結果が出ている。LEDはピンポイントでその波長の光だけを作ることができるので、ほかの波長も含む白色光に比べて効率が良いのだ。
虹が七色に見えたり、日光をプリズムで屈折させるとさまざまな色に分離されたりするように、太陽の光は人間の目に見える範囲でおよそ360ナノメートルから830ナノメートルの波長の光が混ざっている。波長の短い側が青で徐々に緑から赤になる。目に見えないほど波長が短いものが紫外線で、長いものが赤外線だ。
可視光(かしこう)のスペクトル図
植物の発育に良いとされる660ナノメートルは、かなり長い波長で、赤い光。
もちろん、植物を育てるのには太陽光と同じように全ての波長を含んだ白色光でもいいのだが、ピンポイントの波長を使うことにより、効率が良くなり生育スピードも上がる。また、電気代などのコスト削減にもなる。
キーストーンテクノロジーで行っている研究により、ある波長の光を多く照射(しょうしゃ)するなど光の波長をブレンドすると、葉色や形、味や成分にも変化が出ることが分かってきている。
苦みを抑えたホウレンソウや、ポリフェノールやベータカロテンなどの成分をより多く含む野菜を作る波長の光をブレンドしたレシピがすでにいくつもあるそう。
植物の生育に660ナノメートルの赤色光が効率的だということは、すでに知られていることだったが、キーストーンテクノロジーでは、これにほかの波長の光を加えることによって、野菜の機能性成分を増やすことにも成功したのだ。
「ホウレンソウが苦手だという方もぜひ」というアグリ王の土井さん
植物工場の自社開発した発光部には赤、青、緑のLEDが組み込まれている。赤色LEDが660ナノメートル付近、緑色LEDが520ナノメートル付近、そして青色LEDは450ナノメートル付近の波長の光を出す。
各色の組み合わせだけではなく、独自開発のLED発光部には、照射方法などに秘密があるそう。
キーストーンテクノロジーの植物工場の光が紫色に見えるのは、赤い光を中心に、葉の厚みやかたちなど形態形成に重要な役割を果たしている青色光を効率よく加えているため。
さらに緑を加えることにより、さまざまな色の光調整を可能にしている。
この3色のLED光のバランスは、コントローラーで簡単に変更することができる。それぞれを独立制御するこのシステムは世界初だとのこと。
実際に光ブレンド比率を変えてみてもらった
これが栽培時の状態
コントロールして太陽光に近づけたもの。栽培されているのはエディブルフラワー
(食べられる花)
次に栽培システムについてお話を伺った。